ヒキズる日記

ずっと引きずってます。

それが知りたかったんだ。ってなると死んでしまう世界。

女はヒールの浮いた靴でボロっちい体育館の木床をコツコツと打ちつけながら壇上へ登っていく。

 

冬の体育館はよく冷え込んでいて生徒のざわめきは体育館中によく響いていた。もっともそれは壇上へ向かう女に向けられたものでは無く、日曜日のありがたみを分かったつもりでいる生徒達の嘆きの声なのかなと私は思っている。

 

私は比較的冬の学校が好きだ。私はピアノを習っているのだけれど、冬場は発表会も多く学校にいるとき以外はピアノと向き合わなくてはならない。最近スランプ気味の私は文句を垂れることもなく、目の前の高い壇上の中心にたどり着きこちらを見下ろす偉そうな女を見上げていた。

 

女の見た目は20にも30にも40にも見える程若くも老いても見えた。良いように言えば威厳がある。とはいえ壇上に威厳のある女が到着してから数十秒たったが生徒が黙る様子はない。

 

壇上と生徒の距離は女が思っているほど近くないみたいだ。どれだけ静かにしてほしそうにこちらを睨んでも最前列の私からギリギリほうれい線が確認できる程だった。静かにしてくださいとでも言ってくれれば可愛げがあるのに。そんな事を考えながら尚も黙り込む女を見ているとすこしだけ間抜けに見えた。

 

あっ、と何かに察した女生徒が声を竦めて言うと伝染する様に体育館中が静寂を帯びていった。

 

この女の空気になるのが無性に腹が立ったので昨日健太に教えてもらった上靴をズルとオナラに聞こえるというものをやってみた。思ったよりもオナラに聞こえてしまい勘違いされたらイヤだなと思いつつ数名の男子の笑い声が聞こえたので私はホッとした。

 

先程より静かになった体育館をもう1段階鎮めようとしている目の前の女はまたもや黙り込んでいた。この女のやり口は気に入らなかったが最早何でも良かったので早くお話を済ませてほしいところだ。

 

・・・長い。

 

・・・寒い。

 

・・・まだか。

 

静まる体育館の時計の分針が進む。誰かが生唾をゴクリと飲む音まで聞こえてきた。女は咳払いを1つ行い小さく息を吸い込む音がマイクを通して聞こえた。やっとかと思い私は肩を入れて女に耳を傾けた。

 

女「Hey guys! We have a gift for you.」

 

驚いた、どうやら外国人だったようだ。そういえばやけにきれいな顔立ちをしていたがどこの国の人なのだろうか。ギフトフォーユー?何かをくれるのかな。英語の成績が悪い私にはこれからの話を聞き取れる自信がなかった。

 

女「There is a reward wating just for you.」

 

頭をはてなで埋め尽くしながら隣の男子をチラッと見た瞬間。

 

ボンッ!という音とともに頭が爆発した。

 

隣の男子だけではない。クラスの、学年の、学校の全ての男子の頭が破裂したのだ。

 

悲鳴や嗚咽、血生臭い悪臭が体育館中を埋め尽くす頃私は血溜まりの中座りこんでいた。偉そうな女、死んでしまった全ての男子。

 

そしてHey guys!という脳内でリピートされる女の声。

 

狂乱の中私はどうにも頭から離れない先程のHey guys!の続きを思い出そうとしていた。キャッチーで絶妙な音。この音を私は出したかったんだ。残酷にも儚く消えてしまった音をごめんね。と思いながらも私は追い求めた。

 

すると壇上の女はマイクに少しだけ近づき、息を吸う。来る、もう一度その音を私に聞かせて!

 

女「Hey guys! We have a gift for you.」

 

これでやっとスランプから抜け出せる。きっとママも喜んでくれる。偉そうな女と思ってごめんね?この音が私は出したかったんだ。あぁ、やっと答えが出た。

 

ボンッ!!!!