暴力を覚えた僕は瞬く間に、凶暴性を増した。家の中での一人称が「ゆうちゃん」から「俺」に変わったのもその時期だ。
ある日ばあちゃんがチワワを連れてきた。クリーム色の子犬。聞けば馬小屋で生まれたと言うのだ。トンビが鷹を生むの逆だ。馬がチワワを生んだ。
クリーム色の子犬にばあちゃんは「アンコ」と名付けた。「キナコ」じゃないんだ・・・と思ったが、まあ子供の頃なので深くは追及しなかった。
子犬のアンコを、家族各々が二つ目の心臓を貰ったかのように大切にし、愛した。各々の可愛がり方をした。僕はアンコに自分の鼻くそをよく食わせてやっていた。
喜んで鼻くそを食うアンコをもちろん僕も愛した。
ともじいは、アンコが来てから誰にも相手にされなくなった。
我々兄弟がともじいをペットのように扱っていたかと聞かれると、決してそうではない。ただともじいとは「遊んでやっていた。」という感覚が強かった為、相手にしなくなったのだ。
ともじいのコミュニケーションは決定的におかしかった。
ともじいは我々3兄弟標的の誰かを標的に定めると「歯食いしばれ!」と言った後、「パシ♪パシ♪」とビンタをしてくる。
まあいい、ここまでなら。「やめてー(笑)」とか言うし。長いのだ、マジに。
「♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪」
毎回この尺でやるのだ。頭おかしくなってくるぜ。
「パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪」
「ともじいやめてー(笑)」ここからは無だ。もう何も思い浮かばないし、永久とも思えるような時間を耐える。
「パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ♪パシ」
挙句の果てにこれだ。
「た・た・く・よ♪」
もう叩いとんがな。そら無視されるわ。
僕ら兄弟が無視し始めると、今度はアンコに白羽の矢が立った。
アンコに「歯食いしばれ!」
犬だから分からんだろ。とは言えない。愛知県にツッコミの文化はないからだ。
「パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪」
俺たちはこんな怪物を無視して飯食ったりテレビ見てたのか。
「おっかー!」
ともじいは、俺たちのおっかーの事を「おっかー」と呼ぶ。自分の娘なのに。
「こいつ殺していい?」
出た!殺す!
「ダメー」
よかった・・・
「殺すよ♪」
「パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪パシ♪ワン♪」
俺たちが先に死ぬわ!
アンコも遊んでもらって嬉しいもんだから、すぐ「服従のポーズ」をとる。よく犬が寝転んでご主人にお腹を向けるアレだ。
「へっへっへっ!」
ともじいはおもむろにアンコの乳首に手を伸ばす。
クリクリ!!クリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリククリクリクリクリクリクリクリクリクリクリ!!!!!!!!!!!!!!クリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!クリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリ!!!!!!!!!!!!!!!クリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!リクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリククリクリクリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
俺たちは、限界だ。と思った。