連日蒸し暑い夜が続いている。
2年この家に住んでいて気づいたが、梅雨時期に入ると僕の家は虫が大量に発生する。アースジェットに指をかける油断ならない日々を僕は送っていた。
この家はとにかく立て付けが悪いので、あっちこっち隙間だらけなのだ。鍵が開いていると扉はひとりでに開くし、窓は締め切らないので常時10センチ程開いている。
僕は虫が苦手というわけではない。この家に住んで初めに見つけた家蜘蛛には「隊長」名前をつけて飼っていたし、嫌いではないと思う。
その隊長も最近はめっきり顔を出さなくなった。それは僕の家の冷蔵庫の裏で蠱毒のような生物競争が行われているからなのか、部屋にモヤがかかるほど無闇に発射したアースジェットの餌食になったからなのかは分からなかった。
ともかく隊長が殉職して、正式にこの家の隊長に就任した僕には、誰がこの家で一番偉いのかを虫たちに分からせる必要があった。
昨晩も僕の頭上をぶんぶんと飛び回るカナブンに、「やあっ！」とアースジェットを噴射した。
ばーっ！と羽音を大きくした後、吊り下げられた電気の上で、カナブンが羽を止めた。ジェットをかけたあと断末魔のように、暴れまわる虫にいつも声を上げて驚いてしまう。
虫が現れてから倒すのでは奴らの後手に回っているような気がする。いい加減蚊に起こされて格闘する夜を過ごすのも嫌気が差していたところだったので、先日の夜はベープを炊くことにした。
しかし、どこをひっくり返しても見当たらない。
まあいいや。と思い、次は壁にワンプッシュすると蚊が全滅する青いスプレーを探した。こんなに曖昧な書き方をしてるという事は、もちろん見つからなかったと言う事だ。
基本的に頭が悪いので、夏に使うものを冬に捨ててしまったのだと思う。僕は、今は使わないから！という発想でよく物を捨てる。春に断捨離をした時はエアコンのリモコンを捨てそうになった。流石に…ね…と思いながら扇風機を捨てたので、今時期が凄く苦しい。
仕方ないのでその夜は、苦肉の策として本棚においてあった虫除けスプレーを体中に吹きかけて眠った。結局後手中の後手に回った。
