実家でニコという犬を飼っていた。
ボス犬のアンコとヘタレ犬のキナコの間に産まれたチワワだ。
アンコが4匹産んだ中の1匹で、他の子達が成犬になってもニコは一回り小さいままだった。未熟児というものなのかもしれない。
産まれた子犬を全て飼う事はもちろんできなかったので、親戚や知り合いに譲渡する事になった。
耳毛がフサフサで家で一番人気があった子はすぐに、どこかの家に貰われていった。
2匹3匹とトントンと転居先が決まったが、最後まで行き先が決まらなかった子犬がニコだった。
ニコは夜中に妹のベッドで産まれた。ギャーギャーと妹の部屋で騒ぐ声で起こされると、祖母と母親が妹のベッドの周りで騒いでいた。
寝ぼけながら起きると、妹がパジャマのポケットに子犬を入れて笑っていた。それ大丈夫か?と今なら思うが、アンコが妊娠していた事も知っていたので当時は、ついに産んだか!としか思わなかった。
そんなニコはしばらく家内では不遇な時代を過ごしていたような気がする。
僕の家のように動物をたくさん飼う家庭では、各々が可愛がる子も人によって変わってくる。僕はアンコとマロンというシャム猫をとくに可愛がっていた。
そんな感じで、全員を等しく精一杯可愛がる事はあんまりか無かったので、必然的に後発のニコは僕の目から見たら不遇に写っていた。(犬目線?)
ニコは苦労人の様な顔を良くしていたので、僕はよく鼻くそをつけて遊んでいた。ハチに刺されて頬が腫れているときも大笑いしたし、うんこをしているときにジーッと見つめて気まずくさせてやった。イジメられっ子というイメージを僕はニコに抱いていた。まあ、大半は僕がやっていたな。
そんなイジメられっ子のニコに転機をもたらした人物がいた。僕の父親だ。(ドラマチックだ。)
父親とダイエットの為か、健康の為か夜にウォーキングを始めた。それにニコは付き合わされていた。
父は別に家のペット達を特別可愛がるような真似はしなかった。むしろ2世帯の離れに住んでいたので、動物達との関わりは皆無だった。(ペット達は母屋にいた。)
最初は単に散歩相手としてニコを連れて行っていただけだと思う。
毎日続けているうちなのか僕は分からないが、一匹と一人は急速に仲を縮めていったように見えた。
離れにニコの飲水が置かれるようになり、散歩用のリードが玄関に掛けられ、とうとうニコは父親の布団で眠った。
父親はニコを連れて様々な場所へ出かけた。
家の犬で一番車に慣れていたのはニコだった。二人で最早旅行まで出かけていた。
そんなニコは晩年心臓に病気を抱えた。ご飯の後薬を毎日飲ませていた。吐き出してしまうので口に薬を放り込み、上顎とした顎を何秒か抑えなければならなかった。
ニコが死んだら俺泣いちゃうな。と言うのは父の口癖になった。そりゃそうだろうな。と僕は思った。
僕と母と妹がニコの中の2番を競う決まった喧嘩遊びは、父が1番という事実を前提としていた。
今日はニコの命日だ。父はおそらく一匹分隙間の空いたベッドで長すぎる夜を過ごすのだろう。