ヒキズる日記

ずっと引きずってます。

QOL

クリーニング屋は春と秋の衣替えシーズンになると、繁忙期がやってくる。

土曜の午後なんかは、家族連れのお客さんも多く、お子さんが小さいダウンジャケットを、そして親御さんが大きいダウンジャケットをその場でクリーニングに出し、町へ消えていく。なんてこともままある話だ。

まず思うのはどこで衣替えしてんの?だ。通常なら袋やカバンに詰めて、クリーニングに出す。

そして次に思うのは、何の変身シーン?一斉に服脱いで。でもこれがインクレディブルファミリーだとしたら?サインお願いします。ならんわバカ。そんで?仕上がり次第着て帰るんかい。コインロッカーじゃねえんだよ。はあ、暑いね~!春だね~!ダウンいらないね~!ここで脱いでいこうか!あほか。どこのコインロッカーがクリーニングされて戻ってくんだよ。どんなバイヤーだよ。明日、17時に同じ場所で。そこでブツを渡す。黙っとけ。ただのダウンジャケットだろ。だ。

そんなことを頭の中でぽわぽわ考えていると、兼ねてからずーっと大便を我慢していた肛門に限界が訪れたので、同僚にその旨を伝える。手をブンブンと振ってヤバさも一緒に伝えてみた。

「Mなんすか?」同僚は半笑いで言い終えると、興味なさそうに作業に没頭していた。

「Mだけど、でも好きで我慢してない。」と、もう半分切れてたかなぁ。僕が言い終えた瞬間、ウィーン!と自動ドアが開いた。

そのあとから記憶がない。いつの間にか僕は、僕の自宅で同僚と二人でとお酒を飲んでいた。

僕は、家で一人で飲むときは大体人からもらった日本酒を飲んでいるので、誰かと飲むときはビールをよく飲んでいる。どうやら僕はその日もビールを飲んでいたようだ。缶についた水滴が、汗のように側面を撫でる。

同僚は、僕の自宅のグラスで、僕の冷凍庫の氷を使ってレモンサワーを作っていた。もう、何杯かグラスを開けた後のようで、同僚の頬はほんのりと桃色を帯びていた。

夢でないことを確認するようにソファテーブルに雑に開かれたサラミでビールを勢いよくひっかけた。首筋にこもった熱で現実を悟りつつ、アルコールによる浮遊感を、春の木陰を散歩するかのようにたゆたった。

その空間が同僚の一言で一瞬で瓦解することも知らずに。

「筋トレするんだ。」

暗黒が僕の背筋をなめた。同僚の目線の先には、白いペイントで7kgと刻まれた真っ青なダンベル。

そしてぐるりと黒目を動かし、僕の両腕を見た。僕の腕は彼女よりも一回り細かった。

「頑張ってw」と言って彼女は、グラスにレモンサワーを少し残して終電で帰っていった。

僕は、同僚の飲み残したレモンサワーを一気に飲み干し、ベランダから見えた月に向かって両手で中指を立てた。